/5 Sin


 悲劇とは、イズムより生まれ出でるものである。
 エゴイズムとヒロイズム――彼の罪はそこに確かに存在する。
 しかし、悲劇の悲劇足るを知るのはイズムを失った時にこそ始まるのだ。
 英雄は悪魔を殺して英雄と化し、英雄は悪魔を知ってヒトに墜ちる。

 ――英雄と人間の、その間にある差を理解してしまったが故に。



 黒姫シヅカが失踪したのは、丁度あの日の夜だった。
 寝室に戻ったハズの楢木葉魅幽が、その異変を感じて俺に知らせた。
 狭い家の中を捜索している内に、テーブルの上の書き残しを俺が見つけた。
 そこにはまるで俺達を嘲笑うかのようにこう書いてあった。
 『オフィス街 廃ビル ヒンメル 屋上』
 それは明らかな罠の告知。
 ――やられた。
 間違いなく夕凪の仕業だ。
 俺と魅幽がいるっていうのに、気付かれずに進入し、敢えてシヅカだけを攫ってゆく。
 隠密術に長けているのなら不意討ちで魅幽を抹殺すればいい。そうなれば俺は赤子程度の抵抗しか出来ずに死にゆくしかなかっただろう。それを――

 ――糞ッタレ。
 畢竟夕凪にとっての俺達は玩具でしかないのだろう。
 いつでも殺せる。でも簡単には殺さない。飽きるまで、壊れるまで、趣向を変え場を変えて楽しむ。
 なんて、残酷。
 アレにとって自分以外の人間は所詮のところ駒でしかない。
 三原夕凪が主催する、自分の欲求を満たすためだけのゲーム。そのボードの上に俺達はいる。
 死ぬまで踊らされるて、果てるまで全てを搾取されて。
 そしてまずはシヅカが――
 ―――― ―― ―――  ― ――   ―――― ―  ―――   ――――

「――っ!!」
 一番最悪なケースを思い浮かべてしまった。糞、なんて悪夢。

「気をしっかり持ちなさい、雑魚」
「ああ、……わかってる」
 そこは件の廃ビルの二十二階。
 荒廃した世界の一部を担っているその場所で、三原夕凪が待っている。

 ――高層三十階建ての半分以上を、俺と魅幽はなんとか上ることが出来た。
 各階、のみならずビルの周辺には夕凪作の歪な悪魔が散乱している。
 ビルに入るのも一苦労だったが、ビルの各階では更に至難を極めた。至る所に潜み、隙あらば命を狙ってくるカレら。
 屋上にたどり着くまで契約を使用しないようにしている為、襲ってくる悪魔は大抵魅幽が倒した。
 だが、俺だって働いていないワケではない。

「――発っ!!」
 手に持ったその器械を振るう。
 それは、先に重りの付いた細い筒だった。

 ――『悪魔――まぁ、ホムンクルスより純度が遙かに低い人工生命のようなものなんだが、これは夕凪の能力によって肉をつなぎ合わせて作られている。元々あの形態は無理があるし非効率的な動きしか出来ない。そもそもにしてツギハギだらけだから、意外に脆い』

 ヴィィィィィンと云う音と共に、その筒が軽い振動を繰り返している。

 ――『こいつは魅幽の傘の針と似たような作りをしている。つまり一定以上の振動を撃ち込み、内側からあの肉塊を解体するワケだ。それじゃあ、ここらで二手に分かれんぞ。ボウズ、魅幽を頼んだぜ』

「――gyYyyyy!!」
 形容しがたい咆哮――悲鳴とも取れるそれを響かせながら、また一体の悪魔が灰燼に帰した。

 ――作戦は、こうだ。
 まず、気配を持たない信夜教官がビル一階に潜入、ガスを蔓延させる。
 その間に俺と魅幽は屋上へ行き、夕凪と対峙。どうにか黒姫シヅカを奪還する。
 そして俺達の脱出と共にフエゴ少尉が発火能力パイロキネシスによりガスに点火、ビルごと火の海に沈める。
 "釜戸の塔作戦"を、しかし今までにない条件で行うというのだ。
 確かに二〜十階程度であれば有効かも知れない、三十階であるなら隣のビルに乗り移る真似すら出来ない。しかし、それは俺達にも云えることで、味方の脱出が困難であり、それを待っていたら目標を逃してしまう。そこについては詳しい話は聞いていない。
 分っているのは、兎も角あと二十分で脱出しなければ命がないことだけだ。

「一体、どうしろってんだ……」
「なるようになるわ。まず彼女の奪還を考えなさい」
 魅幽らしくもない。そう思った。
 常に理に沿って進む彼女が、今回は行き当たりばったりだ。
 それほどに、事態は深刻なのだろうか。

 二十六階、体力がそろそろきつくなってきた。
 二十七階、あと少しだというのに、身体がいうことを聞かない。
 二十八階――
 迫り来る悪魔に対し、楢木葉魅幽が傘を突き刺す。
 それは悪魔を貫通したが、しかし、次の悪魔が彼女に襲い掛かる。
 悲鳴、衝撃、襲来、撃破。それを幾度となく繰り返し、カラダもココロも相当に消費されていた。

 ――限界だった。
 目標まであと少しだというのに、弱すぎる人間の身体は摩耗する。
 あと二階上るまでに、魅幽は悪魔からの攻撃を幾度となく喰らい、しかし、その度に立ち上がる。
 それは、黒と呼ばれた異端者の、ねじ曲がり装飾された執念。
 確固たるカタチを成した、禍々しいアイデンティティー。

「大丈夫。アナタは無事屋上まで届けます。そうしたら後は頼むわよ」
 それは、夕凪と、一人で対峙しなければならないということ。しかし、楢木葉の身体は傷を受けすぎている。昨日見たあの傷痕、それは、今までの戦いの過酷さを物語っていたのだろう。
 だから、それは当たり前のこと。彼女の為を思うのならば、夕凪は俺だけが相対するべきだ。
 けれど、だからといって――
「休んでろ、魅幽。アイツを奪還したら、今度は急いで脱出しなくちゃならねぇ。その体力くらいは残しとけ!」
 ――少なくとも、今は、この俺がそうさせたくなくて。
 だが、しかし、楢木葉魅幽は止まらなかった。

「馬鹿云わないで。あなただけじゃ上まで辿り着けない。大丈夫、アタシはネロビアンカの暗部を代表する、最大の汚れだもの。『不純物』のけがれた化け物である私が休んでどうするのよ。そのためだけにしか存在出来ないのに――」
「な――」
 ――それで、彼女のあの顔の意味が理解できた。
 『黒』『不純物』。それらはビアンカにとって忌むべきものという意味を備えていたのだ。
 ただひたすらの純白を守るために代わりに黒く染まる贄。それが彼女だった。
 ココロにもカラダにも、夥しい傷を埋め込まれて、それでも彼女には戦うことしか有り得なかった。何故なら――それこそ彼女の存在意義。戦士を捨てた楢木葉魅幽は、その時点で何者でもない誰かになってしまうのだ。
 なんて、哀れ。
 そんな生き方、決して報われるものではないというのに――

 悪魔の爪が、彼女の肉を抉ってゆく。
 瞬間、俺の振動杖ブレイカーがその悪魔を粉砕する。
「馬鹿野郎」
 応報。応報。応報――相殺。
 傷は際限なく増え、しかし、終点は近い。
 ガクン、と魅幽の膝が墜ちる。

「そろそろ拙いみたい……少し早いけど――」
「――っ!」
 そういって、彼女の唇が触れ合ってくる。
 ――ケイヤク。
 全身にボルトを撃ち込まれるかのような痛み――今は大して痛いと思えない。
 精神を引き裂く、タールのような嫌悪感が流れ込む――その苦しみは安らぎでもある。
 筋肉が断線し、結合し――新たなる生物を誕生させるメタモルフォーゼ
 俺の幻想より出でた英雄。
 柊樹勇輔という幻想は――彼女を抱えたまま、屋上へと疾走する。
 悪魔という悪魔を悉く封殺しつつ、俺は、その扉に手を掛けた――



「ようこそ、待っていたわ柊樹勇輔――あなたならここまでこれると思ってた」

 ――広過ぎる空。
 欠片すらのこらないほど天井にぽっかりと空いた穴は、世界の摂理を包み込み統括しているかのようだ。
 そこは最も果てに近く。
 荒廃した世界を具象化するかのようなヒンメルの屋上にて、再び怪異と会合する。

「三原夕凪――。シヅカを、俺の大切な幼馴染みを返せ」
 魅幽を床に寝かせながら、しかし目線は相手を見据えたままに云った。
 何が可笑しいのか、くす、と夕凪が笑う。
 その優美さがこれほど憎いと思ったことはなく、今更ながら、自分にとっての彼女くろひめしづかの重みを痛感した。
「いいわ。彼女が望むならいつでも連れて帰りなさい」
 邪悪な、笑み。
 最悪な展開にはなっていないようだったが、しかし、この女がただで事態を収拾させるほどお人好しでないのは、先だって知っている。
 どころか、おそらくマトモな日常に立ち返れなくなることすらも、俺には理解出来ていた。でも――
「俺は、彼女を取り返したい」
 誇張でもなく、ヒロイズムからでもなく、ただ当たり前のものを求めて、そういった。
 そう、そんなことは最初からわかっていた。
 余計な法則でどれだけ自信を縛ったとしても、そんなのは遊戯と何が変るというのだろうか。
 俺は、つまらない自己愛の為に、彼女を見失っていたに過ぎない。だから――

「……だって。そろそろ出てあげなさい、黒姫シヅカ」
 夕凪が嗤う。最高にして最低の喜悦を称えたまま。
「勇、輔……?」
 その声は、貯水タンクの後ろ辺りから聞こえた。
 ちょうどそのあたりから、彼女らしきモノが姿を現した。
 その再開に、俺は絶句した。
「――シヅカ……!?」

 その姿は、確かに以前の黒姫シヅカそのものだ。
 しかし、違う点を上げるとするなら――どこか、俺を恨んでいるかのような殺気と、
 その背中に、悪魔の双翼が生えているということくらいだろうか。

「夕凪――貴様っ!」
 ――激情が迸る。
 ただそれだけの変化は然し俺の幻想を確固たるモノへと導いた。
 アイツは、俺の幼馴染みに――

「違うわ」
 それは、突然に。
 まるで俺の思考を読んでいるかのような、笑みで。
「あの娘をあの姿にしたのはあの娘自身の意志よ。方法を提案したのは私だけど――」
 ――え?
「なん、だって……」
「……私から云っても非効率的ね。いいわ、シヅカ――あとはあなたの好きにやりなさい」
 それだけ。
 ただそれだけ言い残して、三原夕凪は跳んだ。
 ふわり、と宙に浮いた夕凪は、そのまま貯水タンクの上に飛び乗った。
「待て!」
 この機を逃すまい――そう思ったのは精神より身体が先だった。
 一瞬にして意より早く爆ぜた足は、旋風を伴い夕凪という獲物を追撃する。
「――」
 が、夕凪をも凌駕するかのようなその疾走は――しかし、前方に現れた彼女に止められた。

「待って、勇輔」
 黒姫シヅカ。
 俺達が助けに来た彼女が、俺の道をふさぐ。
 その瞳が告げる。
 意志よりも強く、既に理と化した自己封印の法律を。
「あんたに話があるんだ……」
 その双翼を闇に溶かして、
 余りに真っ直ぐすぎる瞳で、
 あまりに場違いな、しかし呪いに等しい言葉を口にした。

「……オレ、あんたが好きだ」

 ――ドゥン――
 心の蔵が脈動する。

「好きだ……」
 繰り返される言葉ノロイ
 俺の思考を止めるには十分すぎる、それでいて満ち足りるには急すぎる台詞。
 ――喩えるなら、ゼロ
 カンパスに描かれた俺というカタチを、完膚無きまでに塗りつぶす白絵の具。
 永劫に等しき一瞬など、退屈な不変の日常を生きていた俺には無関係でしかなかった。
 なのに、何故。何故か、忘れていたその一瞬を、その時確かに、俺は再認した。

「――ぇ?」
 間抜けな声が出る。
 何だそれ。
 ――矛盾矛盾矛盾ギミックアウト

「なぁ」
 声がする。
「答えてくれ。頼むから、何か云ってくれよ……勇輔」
 掠れた、今にも崩れ去りそうな、声。
 ココロの全てをさらけ出し、ただでさえ脆いそれが危うい状態で放置されている。
「俺……は、」
 わからない。
 俺には俺自身の気持ちが、よくわからない。
 退屈を潰すために一緒にいて、それでも恋人じゃなくて、でも俺はその関係を少し夢想していて、しかし何故かそれを容認できない。
「――わからない」
 答えは、今のところそれでしかない。
「今はまだ……俺には決められない」
 ココロの片隅に何か別のモノが在った気がして。
 限りなく極微細な輝きを放っているそれが、一体何であるのか、俺には全く見当もつかない。
 脳裏を黒色の――
「……魅幽、か」
 ――ドゥン――
 黒色の姫の、黒色の不純物を表す声が、……振るわせる。
 ――否。
 そこにきて俺は否定したかった。
 でも間違いなくその輝きは――

「なんでだ……」
 掠れた声を震わせて、泣く。
「なんでだよ。なんで、たった数日で……こんな範囲外イレギュラーに――。なんで……」
 違う。
 そう否定してやりたかった。
 でも間違いなくその輝きは――

「俺は――」
 しかし、それでも、
「違うんだシヅカ。俺にはまだわからないだけで――」
「黙れ!!」

 ――ドゥン――
 シヅカの瞳が、近い。
 ほぼ触れ合える距離――でも決して触れてはいない間隔。
 それが、俺達の距離と等しいと知った。
 彼女が吐く息から熱すら感じられるほどに、彼女の想いの伝導効率が高い。
 その目は、あまりに真っ直ぐ過ぎて――
「……知ってるよ。アンタがアイツとキスしてた所、見たから」
 ――痛み。
 それが大切な痛みだと俺には分った。
 それが何であるか俺には分らなかった。

「なぁ、知ってたか? この間勝手にオレがアンタの唇を奪ったのを。でもアンタはオレにはそれくらいしかくれないクセに、アイツには――」
 ――なんて、ヒト。黒姫シヅカの唇が言葉を紡ぐ。
 だが、それは愛情の量が異なるのではなくて、それを阻む抵抗の差でしかない。
 確かに、それだけはわかる。
 だって、俺は――
「俺は、お前が好きだ」

 ――ドゥン――
 声に出して、初めてその鼓動を意識した。
「でも、駄目だ。まだ――」
 ――ココロの隅にアイツがいる。
 あー駄目だ俺。なんて優柔不断。
 でも、それは、仕方がない。どれだけ根拠のない愛でも、少しは持っている以上空っぽだった俺には重すぎる。それをほんの少しでも捨てることが嫌で――だから俺には選べない。

「そうか、なら――」
 黒姫シヅカが云う――
 そのあまりに無垢すぎる純真のままで、
「アイツが居なければいいんだ」
 ――そんな、現実離れした狂気の表明を。



 一歩。
 羽を使って空を翔けた黒姫シヅカが倒れている楢木葉魅幽の下へと辿り着くまでの歩数だった。
 その間、俺は一歩も動けないで、しかし、動こうと思えば、一瞬で彼女を止められる。止めるだけならば出来る。
「なぁ」
 笑い。
 まるであの白い■■■のように残酷性を帯びた笑み。
 だがそれが俺には嬉々とした悲哀の表情に見えた。
 彼女は楢木葉魅幽を見下して、微笑んだ。
「――アンタさぁ、後から出てきてヒトのモン取るなよ。アイツはオレのものなんだから――さ!」
 蹴り。
 出鱈目で、効率を全く無視した一撃。
 しかし、強化されているらしい彼女のそれは、平気で魅幽の助骨を数本叩き折った。
「――っぁ!!」
 悲鳴。
 立つ力すら失った魅幽を、シヅカは容赦なく蹴り飛ばす。
 俺は――動けない。
「な、頼むよ。消えてくれ……。アンタさえいなければこんなことにはならなかったんだから、さ。な、頼むって。消えて、消えて、消えて消えて消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!」
 ――破壊デストラクション
 体重を乗せ限界まで引き絞った矢の如き突き。
 回転を利用し、遠心力から威力を引き出した打ち下ろし。
 幾度にも渡って暴力は繰り返され、そしてその度に楢木葉の身体が悲痛な鳴き声を上げる。
 俺は――

「消えろ――――!!!!」
 黒姫シヅカが止めをささんと最後の一撃を振り下ろす。
 それは、絶対的なまでの破壊力を誇った、滅びを約束する拳。
 中空に舞い上がり、落下する威力と強化された筋力を限界まで利用して、その神技は完成に至った。
 あれを喰らえば、楢木葉とて死ぬ以外の選択肢は選べない。
 だから、俺は――

 ――それは、いつかの春。
 桜の木の下で、俺は彼女に出会った。

 ――それは、いつかの夏。
 ひまわりの隣で俺に微笑んでくれた少女がいた。

 ――それは、いつかの秋。
 落ち葉の公園を、二人で歩いた記憶ユメがある。

 ――それは、いつかの冬。
 雪の中を駆け回った幼い、面影――

 振り返ってみれば、
 それは、何物にも代えられない、素晴らしい日々でした。

 ――その中心にはあったのは、紛れもない――

 ――彼女の笑顔。


 ――衝撃、粉砕パウンド
 その鈍い音は、俺の耳には遠く聞こえた。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――!!」
 三原夕凪が嗤っている。
 その身体は宙に浮き、そしてビルの下へと消えていった。
 間髪入れずに振動が来る。
 見ると、階下からの炎が、驚異的な速さで上ってくる。
 だが、そんなことはどうでもいい。
 どうでもいいんだ――

 『黒』『異端者』『不純物』――彼女はまるきり幸せというものを知らなかった。
 それどころかその現実を受け入れて、妥協の生き方を知っていた。そうすれば苦しみすらも稀薄になっていくということも。
 その幼い身体に、数知れぬ程の傷を受け、見ず知らずの男に唇を許し、効率の為なら自身すら殺す覚悟で――
 そんな彼女に救いなんて何一つなかったんだ。
 いや、そんなのは建前でしかないのかも知れない。
 俺は、彼女に、恋をしてしまっていたのだから。
 だから――俺は――
 
【この世界モノガタリは英雄譚。悲劇と喜劇と惨劇と、装飾こそは様々だろうが、その根底には覆し得ない法則がある。
 即ち――『悪魔は英雄に殺される』】


「ゴメン……」
 屋上まで到達した炎が辺りを踊り狂っている。
 頬を伝わる涙の軌跡は、決して途絶えることをしなかった。
「――ゴメン……」
 炎の宴の中にて。
 俺は彼女の死体を抱き抱えた。
 俺が、先程殺してしまった――黒姫シヅカの死体を。

黒姫シヅカアクマ柊樹勇輔エイユウに殺される】

 愛するべきモノを守るためにはそれ以外のものを犠牲にしなければならない百人を守るために十人を犠牲にし一人を守るために百人を犠牲にするだから愛するたった一つのものを守るためにやったのだから俺は後悔するべきではなくてしかし俺は彼女を――そんなの言い訳に過ぎ不殺した殺した愛していたのに殺してしまった黙れ黙れ黙れ黙れ――停止。

「――っぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁああぁああああ!!!!!!!!!!!」




 カチ■―カチ―■カチ――カチ――

 成功ダ、成功ダ。
 英雄ガ覚醒シタ。

 愛スルベキ悪魔ノ血ヲ贄ニシテ。

 ――幕ガ近イ。
 後ハ必然ノ流レニ沿ッテ完結ヘト導カレル。

 全テハコノ残酷ナ物語ヲ完成サセル為ニ。

 カ――カ――カ――(切断)


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