――さて、一体、これはどういうことだろうか? 「っていうか何でこの女も一緒に帰ってくるワケ?」 「アタシにはこの雑魚を守る役目があるの。アナタこそ必要ないじゃない」 「オレはこいつの保護者。アンタがこいつを誑かさないように監視すんの」 「尤もらしく、かつ破綻している口実だけど、要するにアナタが彼と一緒に居たいだけでしょう?」 「な、何でオレが……」 そこは、或るマンションの一室。 俺、柊樹勇輔のクラスメイト兼幼なじみである黒姫シヅカ。そして、俺のピンチにいきなり現れたゴシック調の黒衣の少女。 彼女らは、何故か数日前から俺と同棲している。ゴメン、表現が気にくわないから訂正する――俺の部屋を占領している。 あの夜の対夕凪戦の後の事だ―― 「柊樹勇輔。かなりの想像能力者です。今回の作戦に於ける私のパートナーでした。今後とも共同で任務にあたります」 「おいちょっとマテ、俺はもうこんな危険な事やらないからな。今回だって生き延びるために協力したんだ。お前を助ける為じゃない」 「矢っ張り雑魚ね。三原夕凪が去り際に何て云ったか覚えてないの?」 「あ――」 ――『坊や――あなたを殺すのは次の楽しみにとっておくことにしようかしら』。 そういえばそんなことを云ってたような……。 「わかった? 夕凪の今の目的は何よりアナタ。別に放っておいてもいいのだけれど、アナタは……それで良いか知ら?」 ――なんてフレンドリーな会話の後、意外なことに信夜教官から下された指令が、 「それでは、楢木葉魅幽は以後、夕凪殲滅戦が終了するまで柊樹勇輔と共に行動し、彼を保護せよ。勿論住み込みで」 意地の悪そうな笑みでそういった。 ああ、もしかして一番の問題発言はこの人か。全部この人の所為なのか。 お恨み申し上げます信夜教官。アンタいい人っぽいけど、今は凄く憎く思えるわ。いや、マジで。 ――そんなやり取りがあった。 そして、あれから俺は何度も襲い来る悪魔と戦い、加えてこいつらの相手をもする羽目となったのである。 「なぁ、勇輔からも何か云ってくれよ」 「そうね、当事者が輪の外では纏まるモノも纏まらないわ」 ああ、出来れば今すぐ二人とも出て行ってくれればサイコーに有り難いんだケド。 しかし、保護をなくすわけにはいかず、今更シヅカを引き離せば、夕凪のことだ、そっちを狙って来るに違いない。 「仕方ねーだろ。生活費は全部俺が出してるんだから、黙って平和にしてろ穀潰し共」 ホント、生活費が馬鹿にならない。 両親からの仕送り――少なくなった今月分だけでは賄いきれない程に。 「後で幾らかは出すからさ。いいじゃんケチケチすんなって」 「アタシの分の生活費に関しては、作戦が終了次第ビアンカの方から支払われると思うわ。だから少なくともアタシがアナタの命令に従う理由は無い訳。あーゆーあんだすたんど?」 鬼だ。 こいつらきっと遠慮とかマナーとか、そういう言葉を知らないと思う。 既に俺の家長としての尊厳はないに等しい。糞、どこまで俺を虐めれば気が済むんだ? 俺か弱い青年だから泣いちゃうよ、ホントに。うわーんママー怖い女の人たち二人が俺の生活を邪魔するよー。全裸にひん剥いて裏路地で放置プレイにしてくれよー。 「五月蝿ぇ。ここは俺の家だっての、俺は家長、おまえらは居候――立場わかってる?」 「「ボディーガード」」 「五月蝿いよ!?」 っつーかボディーガードならもっと俺を労れよお前ら。 ここ数日ホントお前らの所為で疲れてる俺。それこそヒトがストレスで死ねるという事実を実証してしまいそうになるほどに。 溜息を吐く。 しかし転じて魅幽は口の端をつり上げる。 嗜虐的とでも表現しようか、そんな勝ち誇った笑みだった。 ゴメンナサイ、怖いから止めて下さい糞野郎。 「そう、残念だわ。普通なら迷惑料として二十万くらい出ると思うんだけど、大人しくするからそれもナシの方向でいいわね?」 「どうぞご自由におくつろぎ下さいっ!!」(0.2秒) 即答。 それは病をもつモノならば誰でも選択せずにはいられない非道な手段。金欠病という病は俺の尊厳すら切り売りさせる。 やべ、俺の尊厳って意外と安いっぽい。 「あ、アンタ、金で釣るなんてサイテーじゃん」 「何とでもいいなさい。これでアタシはここにいる権利を得たわ。アナタは――どうなのか知ら?」 「う、五月蝿い……斯くなる上は――」 左腕を前に、右腕を大きく引いて開脚する。――戦る気満々だよこの女。 「フフ、このアタシに対して喧嘩を売るなんて、馬鹿な女。……身の程というものを教えてあげるわ」 傘を手に取り、丁度相手の咽喉にその先端を向けて構える。 あーもう何かどーにでもなってしまえ糞野郎共。否、糞女郎共。 「八咫雷天流――白狼!!」「刺し穿つ死棘の槍――!!」 必殺技らしき叫び声を上げて激突する両者。 属性的には後者が勝ちますけど、別にどーでもいいので早くどっか消えてくれないか糞共。 絶対的な破壊力を持った神技が、俺の世界を蹂躙してゆく。訴えるぞコラ。 「ったく……何やってんだか……」 疲れ果てていたためか、独り言を漏らす。 だが、それが失敗だったと気が付いたのは、果たして言い終った後だった。 急いで口を噤む。しかしそんなのは文字通り後の祭りだ。 「「――!!」」 あ、何かセンサー発動。 キュピーンという効果音。 熱血バトルしてた二人にアンテナが立っている。 ほら、イメージ的にはアホ毛がピンと立つ感じ。元祖は鬼太郎かも知れない演出。 あと何かこっちを見ている目が光ってる。 ――死の予感。 「そういえばアタシがここにいる羽目になったのも、勇輔が夕凪なんかに関わった所為でしたね」 「なるほど、本来ならオレがここにいる意味なんてないんだよねーそういえば。原因はコイツか」 フフフフフフフ、と妖しい笑みを零す二人。怖ぇよ!? 教訓、口は災いの元。先生、俺には無理っぽいです。 「鎮魂局・怒りの日――!!」「天地乖離す開闢の星――!!」 もうなんかこれ書いてるヤツぁ死んでしまえ。 |
――世界が変る。 イメージは宇宙。 訳のワカラナイ幻想が飛び交う、極彩色に染め上げられた密室。 結局俺は動くことが出来ない。 身体を縛り付けているゲル状の幻想がそれを許さないから。 ――光。 何か来る。 あれは―― 「魔剣・ガンベルク――――――!!」 ――What? 遙か銀河の彼方より飛来したそれは、俺を拘束していたスライムの悉くを切り捨てる。 それは、男だった。 視界がぼやけてよくわからないが、筒状の武器を持っている。気のせいかライオンハートなヒトが映ってる。 齢は30代中頃だろうか。 この空間にはまるでそぐわない安物の半そで半ズボン。 そろそろ寂しくなってきた髪の毛が、その間抜けさを際だたせている。 だが、その身体から発される雰囲気は常人のモノとはとても思えない。 「あ、あんたは?」 「名乗るほどの名前はない。どうしても呼びたければ勇者とでも呼ぶがいい!」 いや、そんなに呼びたくはねぇです。 そしてそんな格好した勇者はいないと信じたい。 「で、おっさん、ここどこよ?」 「勇者! ……柊樹勇輔君、人の話は聞くものだと思うぞ?」 名乗ってもいないのに人の名前を知っている自称勇者。 もしかしてこの人エスパー? 電波系のヒト? 「ここは私の絶対空間。全ての法則を超越し、のみならず法則外の琥珀さんをも凌駕する面白世界」 「奈須超克宣言!?」 ……何か進化してる面白世界。 不吉過ぎる面白世界に割烹着のあの人エッセンスを超越する要素プラスプラス。 或る意味居たい気もするが、疲れそうなので極力遠慮したい。 そして絶対空間って何よ? 「よくぞ聞いてくれた」 いや、人の心読むなよ。 「絶対空間とは限定結界を外界に影響を及ぼす程に昇華させたものであり、自己変革の著しい言霊の組み合わせと神性により実現する浸食系空間魔術だ。本人が神性を持つか、神性を持つ武具・神言・生け贄等の付加神性を用いて(以下略)」 ――うん、さっぱりだ馬鹿野郎。 普通ならイカれたオヤジと判断するところだけど、でも悪魔なんてのもいたし、既に非日常の内にいる俺には強ち嘘っぱちにも思えない。 しかたないのでもう少し相手をしてやることにする。 「もう少し、わかりやすく云ってくれ、おっさん、いや勇者!」 少し煽ってみる。 これくらい云った方が自称勇者的なキャラはベラベラと知っている情報を教えてくれる筈だ。 少なくとも半年くらい前にやったRPGではそうだった。 そして、どうやらこの勇者もその例に漏れず、その策略は見事に成功したっぽい。 ふふふ、と不気味な笑いを漏らす勇者。 ――やる気満々だ。 「いいだろう、では耳をかっぽじってよく聞け」 何かマジモードに入る自称勇者。 容姿とあまりに不似合いな気迫だが、しかし一応俺も気合いを入れる。 「――まず、人の魂には神性と魔性があり、それがさらに地水火風空の五大元素の属性に別れている(中略)これが霊器官を作用させ、マナバーンに対しての防御を作動させる。通常の結界ではマナバーンは防げないからこれは重要だ。また霊器官の力は精神力と比例するので覚えておきたまえ。(中略)言霊とは変革を起こしえるワードであり、その組み合わせを呪文という。魔術はイメェジにより使用でき、呪文はイメェジを深める自己変革を促す。また言霊の組み合わせで、精神への作用も異なるので魔術の特性も変わる。派手で長ったらしい言霊を使えばその分魔術の効力も上がるのだー。(中略)すなわち言霊の組み合わせで、限定結界を絶対空間に神性を用いて昇華させもう俺最強(以下省略)」 長ぇー!!!!飽きた。無理です先生、現代っ子な俺は長話とかマジ無理なんだけど。そんな忍耐力ありませんから!! 「へー、そりゃすごい」 生返事を返す。 結局何一つわからなかった。でも何か質問と答えが食い違っているっぽい。 「そうか、わかってくれたかー。わかってくれたのは君が初めてだ。感動」 どうやら初めて報われたらしい自称勇者。 だが残念ながらこれっぽっちも理解してない俺であった、まる。 そうとも知らずに勇者(?)は感動に浸っている。 今のところ、俺の報われない勇者か、イっちゃってるヤバイ中年かの二つに一つといった印象だ。 個人的には出来るかぎり後者を望みたい。 ――特に俺の幻想を破壊しない為に。 「まぁ、念の為一言で説明してくれない?」 「人智を越えた有象無象の異形共の阿鼻叫喚の世界とかそんな感じ。あと何か努力しないでも“血”とか何とかで(以下省略)」 「もう一回……」 「俺の妄想」(ボソ) 「何だって?」 今のは良く聞こえなかった。短かったから俺にもわかりそうだったけど。 「要するに私は君の夢に干渉しているのだ。或いは君の夢が私の絶対空間に触れている状態とも云えなくはないがね」 久々の獲物――というか話し相手を得たと言った感じで楽しげに喋りまくる自称勇者。 そして今更だけど俺が聞いてたのはその絶対空間の方ですが何か。 っていうかそろそろ素直に固有結界って云っちゃおうよ。 「――」 ――それは、突然の変異だった。 勇者の目の色が変わる。 そのオーラはさっきのまでの間抜けな勇者の十倍の威圧感を持っていた。 「……柊樹君、悪魔に襲われたんだね?(カンだけど)」 「なっ!?」 驚愕。 目の前のイレギュラーは、現実世界の俺の事情を言い当てた。 この冴えないオヤジはやはりただ者ではないのか。 軽いショック。そして目眩。 その時、俺の幻想が少しだけ破壊された。糞糞糞。 「矢張り……さっき君をスライムが襲っていただろう。あれは現実世界の悪魔がカタチを変えた――言うなれば浸食型の悪魔なのだー、のばー、のばー」 な、そ、そうなのか!? 夕凪の新たな策略はビアンカにすら全く気付かれず、この俺に近付いていたのか!? このオッサン、実は北辰の元研究員とかそんな裏設定がありそうな気配すら伺わせる。 やべぇ、何かオッサン凄ぇ、ちょっと尊敬した。 ――ビチャビチャという音がする。 それは、特に気にならないほどの小さな音で。 「危ないっ!!」 しかし勇者の声で俺はやっとその異常を感知し、振り返る。 見ると、件のスライムが俺の背後に近付いている。糞、気付かなかった! 既に攻撃態勢を整えたスライムは、俺の身体を再び束縛しようと迫り来る――間に合わない!! 魔性の光が輝く―― 「魔剣・ガンベルク――――――!!」 勇者の持っているポスター(今はよく見える)は、しかし、その脆弱さを微塵も見せずに、その衝撃波を以てスライムを駆逐した。 その時、確かに勇者の反応速度は、この俺を上回っていた。 「ふ、スライム程度に手こずるこの私ではない。私を倒したければお地蔵さんでも寄越すがいい『東京』配下――北辰め」 「た、助かった……」 とりあえず、一安心。 っつーかその秘密結社はこの近未来的世界にまで生き残ってたのか。しぶといな帝国主義者。今度は実験体でも量産して兵器化する計画だろうか――まぁ、俺には何のことやらだけど。 「大丈夫かい、柊樹君。そして今の技は魔剣・ガンベルクという」 俺の心配をしながらどうでも良いことを話す勇者。 というか分かるし。アンタ思いっ切り叫んでたし。 そんな心内でもツッコミも虚しく、勇者は説明を続ける。 まるで、さっきのスライムがその為だけに用意されたかののようにも感じられる。 「『魔剣ガンベルク』……赤く縫ったポスターですら悪魔を引き裂く威力を帯びる大技。オリジナルの擬似霊体具現化・二重存在の構成による斬撃。 また天地開闢の時に生まれ出でた純粋なる絶対精神の結晶でもあるが、オリジナルは既に失われている。 どんなものでも存在そのものを切れるらしい」 訊いてないって。 そして何でデータベース的説明なのかは全くの不明だ。ってか『らしい』じゃねぇよ。 「背景的イメージは閃光、吉里吉里風に記述すると[image storage="裏拳c" page=fore layer=base]」 「何故に吉里吉里? そしてこれノベルだけどゲームじゃないから。ゲーム化の予定もないから。っていうか何故画像の名前まで知っている!?」 「それはどこかのHP担当(おそらく)が体験版のバージョン2.001を無加工のままアップロードしてしまった為に」 ――閑話休題。 兎も角、赤く縫った靖国参拝問題ポスターを誇らしげに掲げる勇者。 その目はキラキラと輝きこっちを見つめている。怖ぇ。 「――私は君の心意気には感動した。よって君にこれを授ける」 既に会話が成立しないのは前提らしい。 まるで電波の如く喋り続ける勇者。どうやら俺は彼の絶対空間に取り込まれてしまったようだ。 勇者は、俺に向かって赤く塗りつぶしたポスターを差し出す。 正直、要らねぇ。が、仕方がないので貰っておくことにする。 「魔剣ガンベルクは君に託す。さぁ、戦うんだ! 悪魔と、あのニュータイプ能力を備えてそうな白い悪魔と」 ――!? やはりただものじゃない。夕凪の存在すら知っている? ガンベルクと呼ばれたポスターを受け取かどうかという所まで手を近づける。 途端、その絶対空間から俺の夢は乖離され、俺の意識は白に染まってゆく。 最後に「ああ、失敗か……次は『神絶の青き春風さん』のところへ行くか」なんて訳のワカラナイ独り言が聞こえた気がした。 |
カチ■―カチ―■カチ――カチ―― サァ、今回ハ失敗ダッタ。 ダガ同時ニ限リナク惜シカッタ。 ソロソロダ。 ソロソロ―― 英雄ガ、覚醒スル。 ――コノ残酷ナ物語ヲ完成サセル為ニ。 嗚呼、ソウダ、ソノ為ノ駒ヲ用意シヨウ……。 カ――カ――カ――(切断) |